やさしさの循環としての「あしなが運動」あしなが育英会による講演会 報告

5月26日のNPO法人「全国国際教育協会総会」の後で一般財団法人あしなが育英会より講演をいただきました

講演してくれた皆さん

一般財団法人あしなが育英会 アフリカ事業部 徳松 愛さん
日本人奨学生 大隅有紗(おおすみありさ)さん
アフリカ奨学生 ナイジェリア出身 Michael Okuwutu(マイケル・オクワツ)さん
の3人で講演してくれました。

 

あしなが運動は被害者が作り「恩返し」の心が育てた

1961年に当時高校生だった岡嶋信治さん(あしなが育英会名誉顧問)の姉と甥が車にひかれ、なくなったこと、1963年に当時27歳だった玉井義臣さん(あしなが育英会創設者・会長)の母が暴走車にはねられなくなったことから、1967年「交通事故遺児を励ます会」を結成したことが始まりでした。街頭募金や継続的にご寄付をくださる「あしながさん」に支えられて進学できた交通遺児たちが、「恩返し運動」として1983年に災害遺児の奨学金制度をつくる運動を始め、1988年に災害遺児奨学金制度が開始されたのです。

1999年には、阪神・淡路大震災遺児の心のケアの拠点「神戸レインボーハウス」が世界中からの支援を受けて完成。同年、コロンビア・トルコ・台湾で立て続けに大地震が発生し、神戸の震災遺児たちが「恩返しをしたい」と支援を呼びかけたのが海外の遺児支援活動に発展してきました。

アフリカ遺児高等教育支援100年構想とは

「あしながアフリカ遺児高等教育支援100年構想」(100年構想)とは、サブサハラ(サハラ砂漠より南の地域)・アフリカ地域の各国から毎年1人ずつ優秀な遺児を選抜し、世界の大学に留学する機会を通して、将来様々な分野で活躍し、母国の発展を担うリーダーを育成しようという構想です。

アフリカ49ヶ国の各国から毎年一人ずつ、優秀な遺児を世界の大学へ進学支援

片親もしくは両親を亡くし、優秀で社会に貢献する高い意識を持ちながらも経済的に進学が困難な学生をサブサハラ・アフリカ地域の各国から選抜し、ウガンダ(英語圏・葡語圏)およびセネガル(仏語圏)で集中的に受験準備とリーダーシッププログラムを実施したのちに、世界のトップクラスの大学での就学をサポートしています。

現在、日本には100年構想生の約半数が留学しています。大学生活を通じて日本の社会・文化に親しむことに加え、日本国内でのインターンシップを積極的に行って技術や経営手法を学び、将来日本とアフリカを結ぶ懸け橋となることを願っています。また、在学中には日本人学生とともに募金やつどいに参加し、交流を通じてお互いから学びあっています。

なぜアフリカなのか?

創設者の玉井さんは「アフリカは現在、未曽有の人口爆発を続けており、2050年には世界人口の四分の一がアフリカ人になると考えられています。つまり我々のこの世界の未来はアフリカにおける人間開発にかかっていると言っても決して言い過ぎではないのです」

やさしさの循環としての「あしなが運動」を世界的な運動にするために、世界の未来を握る、アフリカ、その中でも世界で最も貧困な地域であるサブサハラ・アフリカ地域への支援を始めたのです。

日本人学生のプレゼンテーション

大隅有紗(おおすみありさ)さん
慶應義塾大学文学部教育学専攻2年
あしなが学生募金局員・東東京ブロック・コミュニケーションユニット所属

6歳の時に父を病気で亡くし、高校1年生からあしなが奨学生になり、「つどい」で遺児家庭の同世代に出会い、仲間に出会うと共に、社会にある経済格差の存在を実感したのです。この経験から教育格差にも関心を持ち、現在大学で教育学を学ぶ一方であしなが育英会の様々な活動に携わってきました。

あしなが育英会では毎年「つどい」と呼ばれるサマーキャンプが開催されます。ここで、普段話せない、悩みや不安などを共有する中で心が開かれていきました。そこで、自分の境遇は、ほかの人たちに比べまだまだ恵まれていると感じました。サマーキャンプで仲間たちとの交流のなかで、経済格差は教育格差を生み出すことを悟りました。結果として、生活していくために、大学進学をあきらめる人も多いのです。

教育格差が進む現状の中で、国家の将来にとって教育は重要との考えから、「学校以外に提供できる学びの場を作りたい」と考えました。それは、人に教えてもらえないと得られないものがあり、教えてもらえる学びの場が必要なのです。そのためにも子供が不安のない社会を作り出し、人生のキャリアを自由に選択できる環境を作りたいのです。

そこで具体的に、あしなが育英会が展開するLSP(ラーニング・サポート・プログラム)で、遺児家庭の小中学生に学習支援を行っています。塾に行けないこどもたちに、ボランティアで小論文の指導や教科指導を行っています。小中学生が大学生とのかかわりを持つことで、学力の向上だけでなく、自分のことを話せる居場所づくりともなっています。

アフリカ域出身学生のプレゼンテーション

Michael Okuwutu(マイケル・オクワツ)さん
東京日本語教育センター1年
ナイジェリア出身で、11歳の時に父を亡くしました。

地域の若者のリーダーシップを向上する団体の立ちあげなど意欲的に活動した後、100年構想生として選ばれ、コロナ禍における出国制限にめげず日本語を勉強し続け、今年3月に来日。日本における発達した技術や製造業等における効率性を学び、母国の地方の発展に貢献したいと考えています。

母の貿易ビジネスを手伝いながら、インターネットを通じて「あしなが運動」の哲学を学んで視野が広がり、同時に日本語にも興味をもったそうです。

2020年に奨学生に選ばれた後、コロナ禍で日本に入国できない中、母国で日本語の勉強を続けました。現在は東京日本語教育センターで日本語を勉強しております、すでに日本語でプレゼンができるほどの日本語能力を身に着けていました。

アフリカ現地でここまで学んだそうですが、その努力には頭が下がります。来年、日本の大学を受験し、工学を学び、日本で働いたうえで、母国に戻り、母国の発展に貢献したいそうです。アフリカ100年構想では母国に戻ることを目的としています、日本語を使い、日本の文化を身に着けたうえで、ナイジェリアに戻ることは日本にとっても、現地に日本をよく知るリーダーが育つことで、まさに100年を見据えた友好構想だと思いました。

あしなが全国募金リレー

あしなが学生募金は、4月と10月に全国約300か所の主要駅や街頭で実施しています、国内外の 親を亡くした子どもたちや親に障がいがある子どもたちの進学を支援する募金活動です。

1970年に、交通遺児の進学を支援するために始まり、時代と共に災害遺児、病気遺児、自死遺児、親に障がいがある子ども、そしてアフリカの遺児へと、支援対象を広げてきました。事務局はあしなが育英会から奨学金をうけて進学した大学生や専門学生を中心に組織され、毎回 約1万人のボランティアに支えられながら街頭募金を実施しています。現在、東北地方をリレー中、 5月28日宮城県から山形県 6月4日 福島県から茨城県 6月11日 栃木県から群馬県です。

「あしなが学生募金全国募金リレーの特設サイト」がオープンしました。
全国募金リレー2022

教育こそが格差や違いを乗り越えて子供たちに未来への夢を与える

あしなが運動には、全国国際教育協会のメンバーにも以前から参加している方がおられます。「一番うれしかったのは、遺児からの直筆の手紙をもらったことだ」と言っていました。寄付が直接、遺児につながっていて、子供たちに少しだけでも夢を与えることができることを実感したそうです。

私たち「全国国際教育協会」との類似性はまさに、教育こそが格差や違いを乗り越え、子供たちに未来への夢を与えることになることを確信していることです。また、教員としては、学校現場においても、毎年送られてくる、あしなが育英会のポスターを張ったり、希望者に奨学金の紹介をしてきました。

特に、多様性を求められるグローバル社会において、アフリカを中心とする海外遺児支援は私たちの活動目的とも一致します。あしなが育英会の岩田有史氏によると「なぜ、日本語を習得してもらうのかの問いには、言語を習得することは、その言語の思考方法を学び、対話のスタートラインに立つことだという。日本人学生とアフリカ人学生がともに暮らし、地政学的にも文化的にも縁遠い人間同士で、継続的な共生関係が結ばれる」と言います。

「あしながさん」に なるのは簡単です、できることから始めましょう

街頭募金に参加する
★つどいに参加する
★ケアボランティアをする
★インターネット上で寄付をする(個人企業・団体
★遺贈(遺産の寄付)

(報告 斉藤宏)

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