JICE 一般財団法人 日本国際協力センター
多文化共生事業部部長 長山和夫氏からお話を伺いました。
JICEの就労分野における日本語教育事業(1978年からのスタートです)の流れが動き始めたのは2008年に起きたリーマンショックでした、自動車産業を中心に日系人労働者の大量解雇が発生したからです。そのあと厚生労働省が委託事業として始めた、「外国人就労・定着支援研修」でした。JICEは当時の「日系人就労準備研修」に関与してきました。
日本語教育には6つの分野があります
それは「留学のための日本語」、「生活のための日本語」、「就労のための日本語」、「児童のための日本語」、「難民のための日本語」、「海外で教える日本語」です。
これらの分野のなかで、現在、JICEが最も力を入れているのが、「就労のための日本語」です、具体的に進めてきたのは「定住外国人向けの就労支援研修」、「日本語教師研修」、「モデルカリキュラム」、「テキスト開発」、「企業むけ研修」なのです。それは、外国人が資格としている日本語能力テスト(JLPT)の弱点がみえたからです。日本語能力テスト(JLPT)で上級のN1を持っている人ですら、職場での日本人とのコミュニケーションがうまくいかないという悩みが物語っています。
例えば、「この研修を受ける以前は上司が職場でどうして怒るのかわからなかったのですが、今はなぜ怒っていたのかがよくわかるというのです、それは自分の言葉使いが失礼だったからだと気づいたそうです。丁寧な日本語を覚えてから、上司とけんかをしなくなったと書いています」。確かに、日本的な慣習では、いきなり要件を切り出すというような行動はなかなか理解してもらえません。職場での談話展開などが必要とされます。
就労の日本語では、外国人材が直面する、文化ギャップ解決へのヒントやアドバイスも組み入れています。JICEは、日本語初級者が学ぶ「はたらくための日本語テキスト」をつくりあげました。テキストを作り上げたのは素晴らしいと思いました。
日本も外国人を受け入れるための抜本的な改革が必要
今、日本は人口減少が続き、社会のあらゆる分野で、労働力の減少が明らかです。政府は外国人の日本での就労増にむけて、施策を考えています。その中で重要なのが技能実習制度でした。人手不足が深刻化している中、私たちの生活を支える様々な分野で、事実上、貴重な人材となっているのが外国人の技能実習生たちです。外国人が日本で働きながら技術を学ぶことができるのが「技能実習制度」ですが、送り出し機関の保証金徴収や日本での失踪者が増えるなど課題満載で、転籍できる特定技能制度ができました。さらに政府は10月18日、技能実習制度の見直しに向けた有識者会議の経過案を発表しました。問題は、転籍ができないため、給料未払いや職場でのパワハラや暴力で失踪していく外国人が多く発生しているからです。
また仮にその職場とコミュニケーションがうまくいっていたとしても、「技能実習制度」は5年たつと、特定技能に切り替えないと帰国せざるをえません。特定技能は2号になると家族もつれてこられるメリットがあるのですが、職種が12職種しかなく、実習制度の88種から限定され必ずしも技能実習制度からうつることができないのが現状なのです。
そこで現在、議題に上がっているのは1年以上職場で働けば、転籍が可能になることや、特定技能の職種拡大などを話し合っています。ご存じのように円安で、日本での就労にメリットを感じなくなってきている外国人たちを、引き留めるためにも、よりよい環境で働いてもらえる改革を早く行ってほしいと思います。
JICEの日本語研修の必要性は増すばかり
このような、現状のなかで、JICEの日本語研修の必要性は増すばかりです。2023年では285クラスを開講し、いままで受講は対面が基本でしたが、80コースのオンラインのズームによるイーラーニングも始めています。しかし、コロナで一時減少した日本語学習者数は令和4年度では219808人と再び増加に転じ、今後も受講者が増加し必要性が増してくるでしょう。
私たちJAGEにもかかわれる分野はありそうだ
わたしたちNPO JAGEもすでに創立以来14年の経験をもち多文化共生社会をめざし、日本語指導だけでなく、数々の学校現場での出前交流事業、研修生を含めた日本古民家での交流会を実施してきました。
JAGEの強みは、全国展開であると同時にもともと国際性、多様性、を持った教員が外国人の悩みに寄り添い問題解決をともに目指してきた経験です。
外国人とうまくコミュニケーションが取れない事例には、「遅刻の連絡などが適切にできない」ということも課題にはいっていますが、学校現場ではよくあることで、多様な外国の生徒たちを含め、文化ギャップを乗り越えて問題解決実践してきました。対象者に寄り添いながら、コミュニケーションをしてきています。その実践経験からも、「生活のための日本語」は私たちにとってもお手伝いできることだと感じました。
(報告 斉藤宏)