日本国際協力センター(JICE)がプログラムを開発、実施したサウジアラビアのDar Al Fikr(ダルアルフィクル)中学生の日本での理数ものづくり研修プログラムの一つで東京大学駒場、21KOMCEEビルにおいて大学院の池上高志教授と筑波大学助教の岡端起先生の授業にJICEのアドバイザーとして参加しましたので報告いたします。(斉藤宏)
Dar Al Fikr schoolはサウジアラビアのJiddah(ジッダ)にある初等、中等の私立学校です。現地では優秀な生徒を集めたエリート校です。教育方法は、生徒の発想、参加を取り入れたアメリカ式の教育方法を積極的に取り入れ、授業も英語で行っているようです。国の近代化のために、日本の技術やものづくり理数教育を研修したいと、中学生グループと高校生グループが日本を訪問しました。
この授業には11歳から13歳の男子中学生9名と副校長のAbdulrahman先生と英語科のMohamed先生が参加しました。
授業のテーマは大学生でもわからないだろうと思われる、哲学的な課題CHAOS(カオス;予測できない複雑な現象を扱う理論)です。これを中学生にどのように説明し理解するか、とてもチャレンジングなテーマと思いました。
池上教授の導入は、まず普通のPendulum(振り子)を振ってその周期性のある動きを見せたうえで、われわれの身の回りにあるPhenomenon(現象)がPREDICTABLE(予測できる)かUNPREDICTABLE(予測できない)かを考えさせました。
そして、自分の考えた現象を前にでてどちらに属するか書きなさいと問いかけたところ、次々と手が挙がり止まらくなるほどでした。
PREDICTABLE Phenomenon
・The Sun
・Weather
・Rotation of the Earth
・Day and Night
・When heating water it becomes steam
UNPREDICTABLE Phenomenon
・Earth Qwake
・Falling of rain
・Tsunami
・Sinking of Titanic
・The world end
・You can’t solve a Gun Shoot
・Woman/Man
・What do I die
・What the crocodile says
・Sign of excitement of animals
子供たちからは、予測できる、予測できない、それぞれについてどんなものがあるか様々な答えが出てきましたが、サウジの子供たちの考えていることが率直に表現されていて面白い答えが多かったと思います。例えば予測できるものとして、Rotation of the earthやWhen heating water it becomes steam等の答えは地学や物理領域の科学的な知識をしっかり勉強していると思いました。それだけでなく What the crocodile say やSign of excitement of animals 等の答えは研究者的な発想にも近く、とても興味深い答えでした。
また、予測がつかないものとして What do I die や You can’t solve a Gun Shoot などの答えは平和な社会で生活している日本の子供たちでは出てこない発想だと考えさせられました。
次に池上先生は予測がつかない例として様々な実験を見せてくれました。
2重のドラムの間に金属粉を入れた水をいれ中のドラムを回転した時に、金属粉が地層のような縞模様を作りだす実験。
小麦粉生地でピザを作る時に伸ばす前に書いた文字が生地を広げていくにつれどのように広がっていくかを実演してみました。
そして、次にDouble pendulum(二重振り子)振り子の先にもう一つの振り込をつけたもの、この予想できない複雑な動きには生徒たちも興味を深めました。さらに横に並べた同じ形状に見える二重振り子を同時に動かしたときに、最初は似たような動きをするのですが、時間がたつにつれ、違った挙動に発展していく演示実験も見せてもらいました。これはわずかな作りの違いによるものと考えられています。
また、センサーをわずかに変えた2台のロボットカーを同時に動かしたときにおこる挙動の違いもみました。
最後に、生徒二人のペアで、それぞれが同じ時間に考えた1か0かの数字を20回、同時に書いてそれが一致する確率を5ペアで調べてみました。13/20、15/20、11/20、10/20、12/20で、個人差はあるものの、人間も「乱数発生器」になれることがわかりました。一方で、相手に予測させるように、くりかえしの数をいう機械にもなれることもわかりました。
まとめてみると、
同じく予測できなくても、「生きてるもの」と「生きていないもの」の違い、それは、その予測の出来なさ加減をコントロールできるのが生命あるいは人間で、それを自分ではコントロールできないこと、カオスならカオスのままというのが「生きていないもの」という考えかたです。
人が単純なカオスを超えた存在であるということがおぼろげながら理解できたのではないでしょうか。
カオスというテーマでの今回の研修は難しいテーマではありましたが、サウジの子供たちの積極性と科学的思考と池上教授たちによるわかりやすい実験により気づきを進める良い研修プログラムでした。
また最も重要なことはDar Al Fikr schoolの考え方として、英語で授業を行い、世界で様々な経験を吸収して国に戻り、サウジアラビアの国際化に貢献できる人材育成を考えている姿勢は、日本においても考えなくてはならない課題です。
今後このような授業を、日本の子供たちと一緒に受けたら素晴らしいコミュニケーションと、相互理解に進んでいくだろうと思いました。